HOME  >   県内進学   >  沖縄から世界へ挑戦する高校生「チーム沖縄」

沖縄から世界へ挑戦する高校生「チーム沖縄」

2013年02月18日

LINEで送る

Catch the dream INTERVIEW
「南部工業高等学校 技術部」


愛車「レキオン」とともに。南部工業高校写真部OBの奥濱藍さん(右から2人目。県立芸術大学2年生)もカメラガールとしてオーストラリアに同行。彼らのチャレンジを記録する

interview

2年に1度、オーストラリアで開催されるワールドソーラーチャレンジ。
沖縄から世界へ挑戦する高校生たちがいる。
汗にまみれ、オイルで汚れ、不眠不休。でも、彼らはとっても格好よかった!

ソーラーカー「レキオン」 いよいよ世界に向けて発進!

世界最高峰のソーラーカーレース「ワールドソーラーチャレンジ」。オーストラリアの砂漠地帯3,000kmを縦断するこのレースは、2年に1回開催され、世界各国から工科系の大学や企業団体、エンジニア集団が参戦するという世界の一大イベントである。そして今年10月に開催される「ワールドソーラーチャレンジ2011」に南部工業高等学校技術部の学生を中心に構成される「チーム沖縄」が参戦決定!レースの準備に慌ただしい日々を送る中、技術部部員の皆さんと飯塚監督に話を聞いた。

世界を目指すプロジェクト
「チーム沖縄」始動

チーム沖縄誕生のきっかけは3年前の2008年。飯塚監督が長嶺中学校に赴任している時で、当時南部工業高校技術部を指導していた真境名先生や琉球大学の清水教授とともに「いつか沖縄から世界に挑戦したい」という思いで結成した。そして飯塚監督が2009年に南部工業高校に着任し、プロジェクトが本格始動することとなる。結成当初は中・高・大学生合同プロジェクトとして長嶺中学校の生徒も参加していたが、現在は南部工業高校技術部の金城孝作くん(機械科3年・部長)、宮里宗一郎くん(コンピューターデザイン科3年)、平良彬くん(機械科2年)、目取眞侑樹くん(機械科2年)と、本校機械科卒業生で現在はパシフィックテクノカレッジ自動車整備科1年の神里太貴くん5名が主要メンバーとなっている。そして、今回このワールドソーラーチャレンジ2011に参加するのもこの5名である。(その他サポートメンバーとして数名の大人も同行)

1から10まで自分たちで
それが物作りの原点

技術部08
ソーラーパネルを乗せる前のバッテリーによるテスト走行にて。スイッチを入れて、車が無事に動き出したときは全員のテンションがアップ!

飯塚監督には「あたえられたものでは意味がない。ものの価値を知り、感謝する気持ちを大切に」という指導方針がある。現在の日本の学校では部活動やその他の活動においても「あたえられたお金や時間を使って一生懸命頑張る」という姿を時折見かける。しかし、飯塚監督は「それでは全く意味がない」という。そのお金を準備するためにどれくらい大変な思いをしてどんな人が動いているのか、その価値を知ってこそ、本当の意味があると話す。そのため、技術部ではできることはできるだけ自分たちで、自分たちにはできないことでもそこまでの道筋は自分たちでというモットーがある。マシーンの設計や製造はもちろん、資金協力(スポンサー協力)の要請まで、1から10まですべて自分たちで行い、そこに大人のお膳立ては存在しない。もちろん自分たちだけではできないこともある。とくに学校にない機械設備を使用しなければならない時など、民間の企業に対し、訪問の予定を立て、プレゼンテーションを行い、協力の要請を行う。この姿に、周りの大人たちは驚くばかりである。そして、その技術力の高さも一流で、とくにアルミの溶接など、工業高校でここまでできるのは日本全国でも数少ないと、みな目を丸くしていた。また、このような対外交渉も当然初めての経験である彼ら。初めは戸惑うことも多かった。しかしそこはさすが副部長の宮里くん、「自分はコンピューターデザイン科で工作機械がいじれない分、広報は頑張ります!」と、お互いがお互いを補い、切磋琢磨してここまでやってきた。最初のころは「監督から言われたからやっていた」かもしれないが、今では「これ(資金集め)がないと始まらないんで」と、すでに物づくりの一部となっている様子。技術部では、これまでも色々なレースに参加するために多くの企業にスポンサー協力をお願いしてきた。そして「営業活動で報われるのはお礼参りの時だよね」と平良くんが話すように、レース終了後は協力してくれた企業一社一社を全員で訪問し、結果を報告。その時、社長さん自ら出迎えてくれたり、社員全員で拍手してくれることもあるという。「感動しました。この人たちに支えられてるんだって実感しました」と話す宮里くんも感慨深そうであった。

沿道の応援に力をもらった
ソーラーバイク本島縦断

技術部09
運転席に被せるフードを作っているところ。費用をできるだけ押さえるため、パーツもほとんどが部員の手作り。機械を借りるために民間の工場に出向いた際、プロの工員もそのレベルの高さに驚いていた

みんなにこれまでの活動で印象に残っていることを尋ねると、開口一番「この3年間(2年間)の内容が濃すぎてどれって思い浮かばない」との答えが。その中でも全員の印象に強く刻み込まれているのは、やはり2010年12月に行われたソーラーバイク本島縦断130km。これは、それまでも一生懸命頑張ってはいたが、どこか目標がぼんやりしていたという部員たちに転機が訪れたチャレンジでもあり、技術部の活動が大きくメディアでも取り上げられるようになったきっかけでもある。「原付をソーラーバイクに改造して、沖縄を縦断しよう」その取り組みは、意外と気軽な気持ちで始められたようだ。動かなくなった原付を2台もらってきて、いざ作業開始。ガソリンタンクとエンジンを外し、バッテリーとモーターに積み替えて、ソーラーパネルを設置する。ところが始めてみると思うようにいかないことばかりで、初めて動いた時には全員から大歓声があがっていた。そして12月の寒い日、本島約130kmをソーラーバイクで縦断する長い1日を迎える。テレビやラジオでも実況中継され、多くの人が固唾をのんで見守ったこのチャレンジ、スタート地点の国頭村辺戸岬からゴールの糸満観光農園まで当初の予定では6時間程度で完走するばずだった。ところが、太陽が雲に隠れてしまって電力不足になったり、長い坂道でバッテリーがもたなかったり、最後はエネルギーが尽きて電動モーターそのものがほとんど動かなくなったりと、予定を大幅にオーバー。結局11時間かけてのゴールとなった。アンカーは当時2年生の金城くん。日が落ちて、寒くなり、モーターの動かない重い固まりとなってしまったソーラーバイクを押しながら挫けそうにもなったという。ところが沿道には、報道を聞きつけ応援に集まってくれた多くの地域住民の方が!!「涙をこらえることができませんでした」と当時を振り返り話してくれた。また、「頑張れば誰かが絶対見てくれている、応援してくれているということが分かりました。その期待にも応えたいと思うようになりました」と、この活動の意義を身をもって体感したようである。そして、いよいよ「ワールドソーラーチャレンジ2011」に向けた壮大なチャレンジが始まる。

不眠不休で完成させたソーラーカー「レキオン」
みんなの夢をかけて、いざスタートラインへ

技術部11
テスト走行中も何度もチェックして手直しを。なかなか思うように走ってくれず、困る場面もあったが、「落ち込んでる暇やいいわけしている時間があったら作業する」と全員がモチベーションをキープ

「ソーラーカーを作っている」と聞けば、格好いい。しかも鈴鹿やオーストラリアのレースに参戦予定。この情報に、「自分が入学した時は機械科1年生の半分は技術部入部希望者でした。みんな夢見てたから。」と笑う2年生の平良くん。ところが、実際の活動は決して楽なものではなく、どちらかといえばつらく地味。飯塚監督が「もの作りは99%準備で、1%が完成の瞬間」と話す通り、その99%に耐えられず、諦めてしまった学生も多い。そして、現在残っているのは部員4名とOB神里くんの計5名。これまでも自作の電気自動車を運転し走行距離を競うエコデンレースや、鈴鹿サーキットでのソーラカーレースに参加したりと実績のある彼らではあったが、今回のワールドソーラーチャレンジは、これまでのことが全く通用しないといってもいいくらい、困難の連続だった。まずは車両規格が違うこと、走行距離が格段に長いこと、そしてなにより世界を相手に闘うということ。現地のオーストラリアではレース前の厳しい車検にもパスしなければ、せっかく行っても出場することができない。そのため、準備はより入念に行われた。ほかの出場チームには、設計も製造も業者やプロのエンジニアにまかせ、できた部品の組み付けや配線だけ自分たちで行う、というところも少なくない。技術部では、設計はもちろん車体に使うカーボンの作成や電気回路、溶接作業まで全部自分たちで行っている。そのため学校に泊まり込んで作業することも珍しくなく、放課後も休みも返上、まさに不眠不休の日々が続いた。「他の部活とどこが違うの?」という質問には「他の部活、とくにスポーツなんかは本番が一番大事だけど、自分たちは本番までの方が重要です。本番はアクシデントさえなければ走るのは車なんで。」とさらりと言って笑う部員たちだが、日々の作業量は生半可なことではこなせない。また気になるのが、彼らの家族の反応である。「学校に泊まり込んで心配はされなかった?」と聞くと、「家に早く帰った方が、『あんた準備間に合うの?』って逆に心配されてました」と部長の金城くん。どうやら家族も彼らを信じ、一緒になって彼らの活動を応援してくれているようであり、それもまた部員たちの原動力となっているのかもしれない。そして8月18日、良く晴れた青空の下、いよいよソーラーパネルを取り付けて最初のテスト走行日を迎える。みんなが見守る中、神里くんが運転する赤い車体のレキオンがゆっくりとスタート。「走った!」みんなの歓喜が極まった瞬間だった。

レースにかける
部員たちの意気込み

このあともまだまだ調整や準備に追われ、車をオーストラリアに向けて出航させたのが9月3日の正午。しかし、部員たちはほっとする間もなく、この日の午後から、今度は企業や団体への資金協力のお願いに奔走していた。部員たちにとってはレースが終わるまではまだまだ気を抜けない日々が続くようである。インタビューの最後に、この「ワールドソーラーチャレンジ2011」にかける意気込みを聞いた。
金城「今まで応援してくれている人たちの期待に応えるべく一生懸命頑張ります。」
宮里「淡々と自分たちのペースを保ちながらも、世界の一流大学たちと闘えるように一生懸命頑張ります。」
平良「みんなで助け合って完走できるように頑張りたいです。」
目取眞「もし現地で電気部品の故障があっても、すぐに対応してレースに支障がないようにしたいです。」
神里「ドライバーとしてがんばります。健康管理にも気を付けて上位を目指します。」
全員「応援よろしくお願いします!」
飯塚監督は「草食系で単純でバカなくらい真っ直ぐ。」と彼らのことを揶揄する。それと同時に「こいつらすごいでしょ?自慢したくて仕方ない」と笑う。実際にインタビューに答えてくれた部員の彼らは、照れ屋で、口数が少なく、ちょっとマニアック、でも、その姿は格好いいと思った。楽で平坦な生活が好まれる傾向にあるこのご時世にあって、何かひとつのことを突き詰める姿勢は素晴らしいと誰もが感じた。レース開始まであと少し。チーム沖縄の、彼らの家族の、応援してくれている人すべての夢を掛けて走るオーストラリア3,000km。どうか最後まで、全力で走り抜けて欲しい。

profile

チーム沖縄 監督
飯塚 悟 Satoru Iizuka
技術部02
南部工業高等学校機械科教諭。エンジニアとしての社会経験を積んだ後、教職へ。「世界へ目を向けた教育」という指導方針のもと、チーム沖縄を立ち上げ、世界を目指して日々指導にあたっている。この活動を通して学生に学び取ってほしいことは「まず、当たり前だけど、『ありがとう』と『ごめんなさい』は言えるようになって欲しいです。そしてやるならとことん。中途半端なことはしない。もちろん結果も大切ですが、それよりもプロセスを大切にして、めんどくさいからやだとか、すぐに諦めたり逃げ出さない人になってもらいたいですね」

ワールドソーラチャレンジ参加メンバー

技術部03
●部長
金城 孝作 Kosaku Kinjo
(機械科3年)
技術部04
宮里 宗一郎 Soichiro Miyazato
(コンピュータデザイン科3年)
技術部05
平良 彬 Akira Taira
(機械科2年)
技術部06
目取眞 侑樹 Yuki Metorima
(機械科2年)
技術部07
神里 太貴 Taiki Kanzato
(卒業生・現パシフィックテクノカレッジ1年)



南部工業高等学校 技術部これまでの実績
■2011年2月/第4回ITまつり展示の部最優秀賞
■2011年2月/第21回沖縄県工業高等学校生徒研究成果作品審査会優秀賞
■2011年2月/第16回沖縄県工業高等学校生徒意見・体験発表大会優秀賞
■2010年7月/ソーラーカーレース鈴鹿ENJOYⅠクラス10位(3年連続出場)
■2009年12月/ソーラーバイクによる沖縄南北130km縦断
■2009年10月/エコデンレース沖縄県大会優勝

活動内容・スポンサー協力についての問い合わせ先
チーム沖縄:飯塚 悟 監督
メール:info@teamokinawa.jp